Domaine Mayard

ドメーヌ・メイヤール

フランス/ローヌ

伝統産地シャトーヌフ・デュ・パプにおける新世代の到来 

ドメーヌ・メイヤールは、1889年にグラシアン・メイヤールが創設したヴィニョーブル・メイヤールを起源とする、シャトーヌフ・デュ・パプに深く根差した家族の歴史から生まれた新章である。130年以上にわたりこの地でブドウを育て続けてきた一族は、アペラシオンの形成と発展とともに歩み、土地と家名を守り抜いてきた。2021年、家族内の方向性の違いを契機にエステートは二つに分割される。フランソワーズの子供ニコラとコリーヌがクロ・デュ・カルヴェールを、ディディエの子であるユーゴとアルテュールがドメーヌ・メイヤールを継承した。醸造設備と在庫はクロ・デュ・カルヴェール側に残り、兄弟は畑を基盤に再出発する。アルテュールは当時を振り返り、こう語る。「危機ではなかった。自分たちのワインを定義する機会だった。」伝統を否定することなく、しかし繰り返すだけでは未来はないという確信があった。「伝統は守るものではなく、更新し続けるものだ。」彼らは自らを“パイザン・ヴィニュロン(農民・ワイン生産者)”と称する。醸造家である前に農民でありたいという意思表示である。「ワインは市場のための製品ではなく、畑という生命体の延長線上に存在するものだ」伝統産地において歴史を受け継ぎながらも、その内部から新世代の到来を示す存在。それがドメーヌ・メイヤールである。

生命を育む場所から生まれる“生きた”ワイン

ドメーヌ・メイヤールの畑はシャトーヌフ・デュ・パプ村内に点在し、ラ・クラウを含む複数のリュー・ディで構成される。平均樹齢は約70年、とりわけラ・クラウには樹齢130年に達する古樹が存在し、世紀を超える時間が今も根の中に刻まれている。丸石が厚く堆積する区画では、日中に蓄えられた熱が夜間にゆっくりと放出されることで、果実は安定して成熟し、力強く明確なストラクチャーを形成する。一方で砂質主体の区画ではタンニンはよりきめ細かくなり、果実の純度と透明感が際立つ。重量感を前面に出すのではなく、精度と均衡を重んじる表現が可能となる。これら性格の異なる土壌特性が重なり合い、最終的なアッサンブラージュに奥行きと立体感をもたらす。「ブドウは本来強い植物だ。理想的な環境を整えれば、自然に健全に育つ。」とアルテュールと話す。その思想の中心にあるのは土壌の再生である。有機認証を取得し、秋にはカバークロップを播種して微生物活動を促進する。堆肥や木片を投入し、耕起を抑制することで団粒構造を安定させ、水分保持力を高める。古樹が集中する区画では馬による牽引作業を採用し、機械による圧縮を避けることで土壌の締め固めを防ぐ。締め固められていない透水性の高い土壌では水が内部へと浸透し、生物活動が再活性化する。さらに畑に1 haあたり60本ほどの木を植え日陰を作るとともに、アグロフォレストリーとマサル・セレクションを実践し、生物多様性を高めている。「ワインが生きているものであるためには、生命を育む場所から生まれなければならない。」その言葉こそが、彼らの畑づくりを貫く根幹である。

果実主導のしなやかなシャトーヌフ・デュ・パプ

2021年に購入した、17世紀建築の地下セラーを改装した醸造空間で、彼らのワインは生まれる。厚い石壁が温度を安定させ、時間の重みが思考を研ぎ澄ませる。醸造は区画ごとの個性を尊重する設計で行われる。発酵槽は角を丸めた形状のコンクリートタンク、木製タンク、ステンレスタンクを用途に応じて柔軟に使い分ける。完熟したブドウを用い、一部は除梗。シャトーヌフ・デュ・パプでは約40日間のマセラシオンを経て、抽出は穏やかに管理される。「抽出でワインを作るのではなく、果実の質でワインを作りたい。」熟成は最初の1年間を木樽で行い、その後コンクリートタンクへ移行し、合計18カ月後に瓶詰めされる。樽の役割は香りを付与することではなく、適度な酸素との接触によりストラクチャーを整えることにある。彼らが何より重視するのは“生きたもの”への敬意である。土壌、樹、微生物。その連続性を断ち切らないこと。「伝統的な重厚感が特徴のシャトーヌフ・デュ・パプも素晴らしいと思うが、私たちにとって最も重要なのは、ボトルを最後まで飲み干してもらうこと。」結果として生まれるワインは、やや淡めの色調、花や乾燥ハーブのニュアンス、緻密で流動的なタンニン。パワーを誇示するのではなく、均衡と可飲性を追求するスタイルである。ドメーヌ・メイヤールは、土地と生命への敬意を、静かに、しかし確実にワインへと翻訳している。

生産者ストーリー

【果実と土壌が導く、新世代シャトーヌフ・デュ・パプ】

アルバの小さなワインショップで、そのボトルは静かに棚に並んでいた。イタリアで売られているシャトーヌフ・デュ・パプとはどのようなものなのだろう。そう思い、何気なく手に取ったのが、ドメーヌ・メイヤールとの出会いだった。抜栓し、グラスに注ぎ、口に含んだ瞬間、私はわずかに言葉を失った。そこにあったのは、これまで幾度となく経験してきた重厚で濃密なシャトーヌフとは明らかに異なる表情だった。色調は想像よりも淡く、香りは花や乾いたハーブが先に立つ。口中では緻密な構造を保ちながらも、重さではなく流動性が前面に現れる。力強さを誇示するのではなく、均衡を描くワイン。

ドメーヌ・メイヤールは、1889年にグラシアン・メイヤールが創設したヴィニョーブル・メイヤールを源流とする、シャトーヌフ・デュ・パプに深く根を下ろす家族の歴史から生まれた新たな章である。130年以上にわたり一族はこの地でブドウを育て続け、アペラシオンの形成と発展を間近で見守りながら、土地と家名を守り続けてきた。その歩みは単なる農業経営の継続ではない。世代を超えて畑を引き継ぐという責任、土地と共に生きるという覚悟の積み重ねである。シャトーヌフ・デュ・パプという産地は、ローヌの中でも特に象徴的な存在だ。歴史、名声、価格、評価。すべてが高い水準で固定化された場所である。その内部で生まれ育ったメイヤール家は、伝統の重みを誰よりも理解している。しかし理解しているからこそ、それに安住する危うさも知っている。2021年、家族内の方向性の違いを契機にエステートは二つに分割される。フランソワーズの子供ニコラとコリーヌがクロ・デュ・カルヴェールを継承し、ディディエの子であるユーゴとアルテュールがドメーヌ・メイヤールを引き継いだ。醸造設備と在庫はクロ・デュ・カルヴェール側に残り、兄弟は畑のみを手に再出発することとなる。完成された体制を受け継ぐのではなく、基盤から再構築する道を選んだのである。アルテュールは当時を振り返り、こう語る。「危機ではなかった。自分たちのワインを定義し直す機会だった。」彼の口調は穏やかだが、その言葉には強い意志が宿る。伝統を壊したいわけではない。だが繰り返すだけでは停滞する。「伝統は守るものではなく、更新し続けるものだ。」その言葉は挑発ではなく、内側からの問いかけである。彼らが自らを“パイザン・ヴィニュロン(農民であり、ワイン生産者)”と称するのも象徴的だ。醸造家という専門職の枠を越え、土地に根差した農民であることを選ぶ姿勢である。ワインはセラーで完成するのではなく、畑で始まる。市場の要求に応えるための製品ではなく、土壌、樹、気候といった生命の連続性の中から自然に立ち上がる表現であるべきだという考えが根底にある。アルテュールはこうも言う。「私たちはワインを作っているのではなく、環境を整えているだけだ。」その視線は短期的な成功ではなく、次世代へ向けられている。自分たちの世代で完成させるのではなく、より良い状態で次へ渡す。そのための再出発であった。確立された伝統産地において、歴史を受け継ぎながらも、その内部から静かに更新を試みる存在。大きな声で革新を叫ぶのではなく、畑に向き合い、方法を見直し、思想を研ぎ澄ませる。その積み重ねこそが新世代の到来を示す証である。

ドメーヌ・メイヤールの畑はシャトーヌフ・デュ・パプ村内に点在し、ラ・クラウを含む複数のリュー・ディで構成される。平均樹齢は約70年。古樹のグルナッシュが中核を担い、シラーやムールヴェードルが骨格を補強する。とりわけラ・クラウの区画は象徴的存在である。丸石が厚く堆積する典型的テロワールであり、その一角には樹齢130年に達する古樹が今も根を張る。土壌は区画ごとに明確な個性を持つ。丸石区画では日中に蓄えた熱が夜間に放出され、果実は十分に成熟し骨格が形成される。一方で砂質主体の区画ではタンニンはよりきめ細かくなり、果実の純度と透明感が際立つ。重量ではなく精度。これら異なる土壌特性が重なり合うことで、最終的なアッサンブラージュに奥行きが生まれる。アルテュールの思想の中心は土壌の再生にある。気候変動への対処を表層的な技術ではなく、土壌構造そのものの改善に求める。有機認証を取得し、秋にはカバークロップを播種して微生物活動を促進する。堆肥や木片を投入し、耕起を抑制することで団粒構造を安定させる。土壌の締め固めを抑え、畑を尊重するという意思のもと、彼らは馬による牽引作業を選択している。特に古樹が集中する区画では、機械の重量による圧縮を避けることが重要である。締め固められていない透水性の高い土壌では、水は地表を流れ去るのではなく内部へと浸透する。その結果、土壌の生物活動が再活性化し、ミミズや微生物が増え、土壌構造そのものが改善されていく。さらに1 haあたり約60本の樹木を植樹するアグロフォレストリーを実践。日陰を作り、落葉が腐植層を形成し、昆虫や鳥を呼び込む。マサル・セレクションによる植樹も進め、遺伝的多様性を維持する。目指しているのは、単に「有機」であることではない。古樹が今後も数十年、百年と生き続けられる環境の構築である。畑は生産の場ではなく、生態系として設計されている。ドメーヌ・メイヤールのワインは、その土壌の思想そのものの表現である。

2021年に購入した、17世紀建築の地下セラーを改装した醸造空間から彼らのワインは生まれる。厚い石壁が温度を安定させ、時間の重みが思考を研ぎ澄ませる。醸造は区画ごとの個性を尊重する設計で行われる。発酵槽は角を丸めた形状のコンクリートタンク、木製タンク、ステンレスタンクを用途に応じて柔軟に使い分ける。完熟したブドウを用い、シャトーヌフ・デュ・パプでは約40日間のマセラシオンを経て、抽出は穏やかに管理される。「抽出でワインを作るのではなく、果実の質でワインを作りたい。」熟成は最初の1年間を木樽で行い、その後コンクリートタンクへ移行し、合計18カ月後に瓶詰めされる。樽の役割は香りを付与することではなく、ストラクチャーを整えることにある。彼らが何より重視するのは“生きたもの”への敬意である。土壌、樹、微生物。その連続性を断ち切らないこと。「最も重要なのは、ボトルを最後まで飲み干してもらうこと。」結果として生まれるワインは、やや淡めの色調、花や乾燥ハーブのニュアンス、緻密で流動的なタンニン。パワーを誇示するのではなく、均衡と可飲性を追求するスタイルである。ドメーヌ・メイヤールは、土地と生命への敬意を、静かに、しかし確実にワインへと翻訳している。

DATA

造り手:アルテュール、ユーゴ、ジャン

国/地域:フランス/ローヌ

栽培面積:12 ha