
レレ・イーア・ヴァイン!
ドイツ/ファルツ


家族の伝統を引き継ぎながら導く新たな進路
ドイツ、ファルツ南部、エシュバッハ。8世代続く家族ワイナリーのもとに生まれたレナ・マリア・ユーリエ(愛称レレ)は、伝統的なドイツのコンヴェンショナルなワイン造りの環境で育った。家族は長年、安定した品質と市場適合性を重視する王道のスタイルを守り続けてきた。それは否定されるべきものではなく、地域の歴史そのものである。しかし彼女は、その内部にいながら別の問いを抱く。「樹は本当に健全に生きているのか。」その問いを決定的なものにしたのが、世界的な剪定専門チーム、シモニット&シルクでの経験だった。導管を守る剪定、長期的視点に立った樹勢管理、収量よりも生命力を優先する思想。彼女はそこで、ブドウ栽培を“生産技術”ではなく、“生態系との対話”として捉える視座を得る。その思想を自らの言葉でワインとして表現するため、2016年、家族の畑の一部を用い、栽培から醸造までをすべて自身の責任で行う実験的プロジェクトを開始した。「シモニット&シルクのアプローチの方が、より健全で質の高いブドウができることは分かっていた。しかし家族にその理論を伝えるのは簡単ではなかった。彼らには長年信じてきた方法があった。何十年も機能してきたやり方を変えることは、単なる作業変更ではなく価値観の転換だった。そして納得してもらう必要があった。」彼女は畑で実践し、結果を示し、理論を共有し続けた。言葉ではなく、ワインで示したのである。やがて家族はその変化を理解し、「その方が良い」と納得し、自ら学び始めたという。それは世代交代ではない。伝統の否定でもない。伝統の内側からの更新である。

家族と共有される畑と適切な成熟の設計
レレの個人プロジェクトで用いられるブドウは、家族ワイナリーの所有区画から生まれる。畑は主にエシュバッハおよびハンバッハ周辺に位置し、区画は家族全体で共有されている。レレが自らのワインに使用する区画は毎年固定ではない。その年のヴィンテージ条件、収量バランス、樹の状態を踏まえながら、家族経営の中で自然に役割が定まる。レレはその担当分を受け持ち、栽培から醸造までを一貫して担う。舞台となるファルツ南部は、ドイツでも特に温暖で乾燥した気候帯に属する。ハールト山脈が西からの降雨を遮り、年間の日照時間は長い。成熟は得やすい土地である。しかし同時に、成熟が急速に進みやすいという側面も持つ。土壌は複層的だ。エシュバッハ周辺にはレスや粘土を主体とした深い土壌に、古い砂岩が混在する。水分保持力に優れ、乾燥した年でも樹のバランスを保つ。一方、ハンバッハ側にはより軽い砂質土壌が広がり、春先の地温上昇が早く、生育はやや前進する傾向を持つ。この土地で彼女が最も意識しているのは、成熟の速度を制御することである。レレは葉を積極的に取り除かない。キャノピーを保ち、果房に直射日光が当たり過ぎることを避ける。強い日射にさらされたブドウは糖度を急速に上げるが、その過程で酸やフェノール成熟が追いつかないことがある。彼女はそれを避ける。葉を残すことで、生育期間は自然に延びる。糖度だけが先行せず、フェノールや種子の成熟が十分に進む。タンニンはきめ細かく、苦味は抑制される。これはパートナーであるニコラス・ユレティチと共有するアプローチでもある。成熟を加速させるのではなく、整えるという発想だ。加えて、シモニット&シルクで学んだ剪定理論がその基盤にある。導管を守り、樹の内部構造を壊さず、長期的な健全性を維持する。短期的な収量ではなく、時間軸を引き延ばした農業である。2017年、家族ワイナリーはビオディナミおよびオーガニック栽培への転換を開始し、2020年にはオーガニック認証を取得した。レレの実践は個人の試みを越え、家族全体の方向性へと広がっていった。同じ土壌、同じ光の下で、彼女は成熟を急がせない。ファルツ南部の強い日差しを制御しながら、時間を味方につける。その畑の設計思想が、ワインの輪郭を決定している。

ブドウの成熟を、過不足なく映し出すワイン造り
レレのワイン造りは、畑で整えた成熟をそのままワインに映すことにある。葉を残し、生育期間を引き延ばして待った果実。そのブドウに対して、オレンジワインとしては比較的短い7–10日間のマセラシオンを行う。抽出は強くない。しかし十分である。畑で種子まで成熟したブドウだからこそ、短期間の果皮接触でも、良い要素が過不足なく引き出される。タンニンは主張しすぎず、輪郭を整える方向に働く。ブドウの質そのものをワインに映し出す設計だと感じる。発酵後、ワインはステンレスタンクまたは使用済みの500 Lトノーで11カ月熟成される。容量の大きな古樽の中で、時間をかけて整えられる。瓶詰めは無濾過・無清澄で行われる。試飲した印象として、そこに感じたのはフレッシュさと奥行きの同居だった。果実の明るさは失われず、それでいて果皮由来の構造が奥行きを与える。軽やかというより、しなやかである。過度な抽出でもなく、過度な軽さでもない。ブドウをそのままワインに翻訳したような感覚。畑で時間をかけ、セラーで整え、余計なものを削らない。その積み重ねが、グラスの中に静かな緊張と持続を生む。レレのワインは、誇張しない。だが、確かにブドウが映っている。
DATA
造り手:レレ(レナ・マリア・ユーリエ)
国/地域:ドイツ/ファルツ
