Martissima

マルティッシマ

イタリア / フリウリ

 家業の継承ではなく、自分の言葉で語るワインへ  

マルティッシマは、イタリア、フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州コッリオ地区出身のマルタ・ヴェニカが2019年に立ち上げた小規模ワイナリー。マルタ・ヴェニカは1920年代からコッリオでワイン造りを続ける家族経営の名門ワイナリー”ヴェニカ&ヴェニカ”に生まれ、幼少期からブドウ畑とワインに囲まれて育った。父ジョルジョが率いるヴェニカ&ヴェニカはコッリオを代表する造り手として高品質な白ワインで知られているが、マルタはその恵まれた環境に甘んじることなく、自らの視点でワイン造りに挑む道を選んだ。幼い頃から収穫を手伝っており、18歳から本格的にワイン造りの道へ進む。ウーディネ大学でブドウ栽培・醸造学を修めた後、ドイツのガイゼンハイム大学への留学を経て、ピエモンテのチェレット、トレンティーノのフォラドリ、ドイツ・ナーエのデンホフ、シャンパーニュのピエール・ペテルスなどで研鑽を積んだ。「チェレットとフォラドリではビオディナミの思想と実践、自然と対話するワイン造りを学んだ。デンホフでは精密な畑の管理と適切な収穫時期を見極めることの重要性、ピエール・ペテルスではその土地・土壌を理解することの重要性を学んだ」と語る。2018年にはアルゼンチン・パタゴニアのボデガ・チャクラで1年間の研修を行い、この経験がマルタにとって大きな転機となった。「故郷から遠く離れたパタゴニアの地で樹齢50年以上のトカイ・フリウラーノのブドウ樹を見た。その瞬間、世界の反対側にいるのに、なぜか家に帰ってきたような感覚だった。」国や制度を超えて、土地と品種、人の関係性が成立し得ることを、身体的に理解した経験であった。こうして故郷コッリオに戻った彼女は、家業とは異なるスケールで、自身の価値観を純度高く表現するため、2019年にマルティッシマを立ち上げる。ブランド名は友人たちから呼ばれていた愛称に由来し、「究極のマルタ」という意味を持つ。

 森に囲まれた畑と、生命に満ちた土壌

イタリア側ではコッリオ、スロヴェニア側ではブルダと呼ばれる。同一の地質と気候条件を共有しながら、歴史や文化の違いがワインの表情に微細な差異を与えてきた地域である。「畑に立てば、国境は意味を持たない」。この認識は、彼女のワイン造りの前提となっている。アルプス山麓から流れ込む冷涼な風と、アドリア海からの温暖な影響が交差することで、ブドウは十分な成熟度を保ちながらも酸を失わない。土壌は泥灰質マールと砂岩が層をなすポンカが主体で、ワインには明確な塩味とミネラル感が現れる。この地質は古くからトカイ・フリウラーノやリボッラ・ジャッラといった土着品種と深く結びついてきた。マルティッシマの畑はコルモンス近郊、南東向きの斜面に位置し、1960年代に曾祖父によって植えられた樹齢60年の古樹が中心である。白品種と赤品種が混植され、畑全体が一つの生態系として機能している。「畑はコントロールするものではなく、関係を築く相手」。周囲を森林に囲まれた環境は生物多様性に富み、鳥や昆虫、微生物が土壌のバランスを支えている。栽培はオーガニック栽培を基本とし、土壌再生に重点を置く。除草剤は使用せず、剪定枝や搾りかすは堆肥化し、自家製の有機肥料として還元する。「強すぎる処理は、畑を依存させてしまう」と、施用は必要最小限にとどめ、畑が自立していく状態を目指す。「現在はオーガニック栽培を行っている。将来的にはビオディナミに移行したいと考えているけど、焦ることはない。私自身がしっかりとビオディナミを理解し、”今日はこの追加の処理を行える”、”このビオディナミのプレパラートを使える”と言える段階に来たら、その時に取り入れればいい」と語る。

急がせないワイン、静かに変化する、その瞬間まで

セラーにおいても、マルタの考えは一貫している。「ワインは完成品ではなく、時間とともに変化する存在」。そのため、醸造における役割は、ワインを形作ることではなく、その変化を見極めることにある。収穫はすべて手摘みで行われ、発酵は人工酵母を用いず、ブドウ由来の天然酵母に委ねられる。温度管理やバトナージュはいずれも必要最小限にとどめられ、亜硫酸塩の使用もボトリング時にごく少量のみである。「私はワインを急がせたくない。待つことが仕事だと思っている。十分な清澄時間が取れるようになったから2022年ヴィンテージからは完全に濾過を廃止した。」白ワインはトカイ・フリウラーノ、リボッラ・ジャッラ、マルヴァジアのフィールドブレンド。収穫後、軽いマセラシオンのため、一晩プレス機の中で静置される。全房で圧搾後、ステンレスタンクとトノーに分けて自然発酵し、澱とともに熟成される。フレッシュな酸と塩味を骨格としながら、時間の経過とともに質感と奥行きが加わっていく構成である。赤ワインはメルロを主体に、フリウリの土着品種レフォスコを補助的に用いる。全房発酵を経て、樽とタンクで熟成され、「コッリオの土着のブドウでパタゴニアのボデガ・チャクラのようなワインを造りたかった」と、果実の明瞭さと緊張感を保ちながら、重さに傾かないエレガンスを備える。

彼女はワインを過度に理論化することを好まない。「全部を理解しなくてもいい。そのまま体験してほしい。ワインを造ることも、飲むことも頭でっかちになりすぎず、感覚的に楽しむことを大切にしたい」と語る。

生産者ストーリー 

世界を巡り、故郷で始まる新たな物語。自然と向き合う時間がワインになるまで 

マルティッシマは、イタリア、フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州コッリオ地区出身のマルタ・ヴェニカが2019年に立ち上げた小規模ワイナリー。マルタ・ヴェニカは1920年代からコッリオでワイン造りを続ける家族経営の名門ワイナリー”ヴェニカ&ヴェニカ”に生まれ、幼少期からブドウ畑とワインに囲まれて育った。父ジョルジョが率いるヴェニカ&ヴェニカはコッリオを代表する造り手として高品質な白ワインで知られているが、マルタはその恵まれた環境に甘んじることなく、自らの視点でワイン造りに挑む道を選んだ。幼い頃から収穫を手伝っており、18歳から本格的にワイン造りの道へ進む。ウーディネ大学でブドウ栽培・醸造学を修めた後、ドイツのガイゼンハイム大学への留学を経て、ピエモンテのチェレット、トレンティーノのフォラドリ、ドイツ・ナーエのデンホフ、シャンパーニュのピエール・ペテルスなどで研鑽を積んだ。「チェレットとフォラドリではビオディナミの思想と実践、自然と対話するワイン造りを学んだ。デンホフでは精密な畑の管理と適切な収穫時期を見極めることの重要性、ピエール・ペテルスではその土地・土壌を理解することの重要性を学んだ」と語る。2018年にはアルゼンチン・パタゴニアのボデガ・チャクラで1年間の研修を行い、この経験がマルタにとって大きな転機となった。「故郷から遠く離れたパタゴニアの地で樹齢50年以上のトカイ・フリウラーノのブドウ樹を見た。その瞬間、世界の反対側にいるのに、なぜか家に帰ってきたような感覚だった。」国や制度を超えて、土地と品種、人の関係性が成立し得ることを、身体的に理解した経験であった。「私が自分のプロジェクトを始めることができたエネルギーは、間違いなくボデガ・チャクラでの経験から来ている。アルゼンチンからの帰りの飛行機の中で、自分が最も好きなこと、自然と触れ合い、自分の小さな楽園で日々を過ごすことを通して創造性を表現したいと決めた。」こうして故郷コッリオに戻った彼女は、家業とは異なるスケールで、自身の価値観を純度高く表現するため、2019年にマルティッシマを立ち上げる。ブランド名は友人たちから呼ばれていた愛称に由来し、”究極のマルタ”という意味を持つ。

コッリオはイタリアとスロヴェニアの国境にまたがる丘陵地帯であり、イタリア側ではコッリオ、スロヴェニア側ではブルダと呼ばれる。同一の地質と気候条件を共有しながら、歴史や文化の違いがワインの表情に微細な差異を与えてきた地域である。「畑に立てば、国境は意味を持たない」。この認識は、彼女のワイン造りの前提となっている。アルプス山麓から流れ込む冷涼な風と、アドリア海からの温暖な影響が交差することで、ブドウは十分な成熟度を保ちながらも酸を失わない。土壌は泥灰質マールと砂岩が層をなすポンカが主体で、ワインには明確な塩味とミネラル感が現れる。この地質は古くからトカイ・フリウラーノやリボッラ・ジャッラといった土着品種と深く結びついてきた。マルティッシマの畑はコルモンス近郊、南東向きの斜面に位置し、1960年代に曾祖父によって植えられた樹齢60年の古樹が中心である。白品種と赤品種が混植され、畑全体が一つの生態系として機能している。「畑はコントロールするものではなく、関係を築く相手」。周囲を森林に囲まれた環境は生物多様性に富み、鳥や昆虫、微生物が土壌のバランスを支えている。「自家製のバイオ肥料を作っていて、原料はすべて身近なもの。 多くは地域由来の資源で、穀物の副産物や、近隣のビオディナミ農家の家畜堆肥など、いわば”キロメートル・ゼロ”の素材。 それらを組み合わせ、非常に高い活力を持つオーガニック肥料を作る。 これらは非常に生命力が強いため、使い方には節度が必要。 畑がそれを必要としなくなるほど、自立していく。 年に一度施すだけで、結果は明確に畑に現れる」と自然のバランスの重要性を説明する。「現在はオーガニック栽培を行っている。将来的にはビオディナミに移行したいと考えているけど、焦ることはない。私自身がしっかりとビオディナミを理解し、”今日はこの追加の処理を行える”、”このビオディナミのプレパラートを使える”と言える段階に来たら、その時に取り入れればいい」と語る。

マルティッシマの原点となる畑は、コルモンス近郊に位置する単一ヴィンヤードから始まった。ここには、トカイ・フリウラーノ、リボッラ・ジャッラ、マルヴァジアの白ブドウ3品種とメルロ、レフォスコといった黒ブドウ品種が混植されている。樹齢は約60年で、彼女の曽祖父が植えた畑である。「家族の記憶が詰まった場所」と彼女は語る。この区画は風通しが非常によく、湿度がこもらないため病害リスクが低く、オーガニック栽培が成立している。コッリオ・ビアンコからスタートし、現在は新たに樹齢の高い区画を入手し、計5種類のワインを造っている。マルタの畑には、機械では入ることができず、完全に手作業でしか耕せない区画が存在する。そこで重要な役割を果たしているのが、フランス原産の重輓馬ペルシュロンの牝馬「リゼット」である。トラクターよりもゆっくりと進み、立ち止まり、地面の硬さや湿り気を感じながら作業を進めるその時間は、彼女にとって自然との関係を取り戻すための大切なプロセスでもある。ときに香りに惹かれて草を食み始めることもあるが、その小さな休止さえ、畑に必要なリズムとして受け入れている。畑はコッリオの高台に位置し、遠くにはラグーナ(潟)を望むことができる。海の香りと森の香りが交わるこの場所は、彼女のワインの世界観そのものと言える。マルタは、その感覚をラベルにも反映させている。孔雀や馬、鶏といった身近な動物たち、色彩豊かな夢の世界。庭で新鮮な卵を手に取る喜びのような、自然とともにある暮らしの感覚を、ワインを通じて表現したいと考えている。

醸造におけるマルタの基本姿勢は、「ワインは急がせない」という一点に集約される。収穫されたブドウは小さなバスケットで運ばれ、軽いマセラシオンのため、一晩プレス機の中で静置される。「十分な清澄時間が取れるようになったため、2022年ヴィンテージからは完全に濾過を廃止した。」最低でも2年間の熟成を経てからリリースされる。「私にとってワインは時間とともに変化する、動的な存在。願わくは、その進化がよりゆっくりであってほしい。私はセラーでワインを待つことでバランスを見極める。ワインが本当に準備できたときに瓶詰めし、消費者のもとへ届ける。人生と同じで、それは曲線。頂点に達する直前、その瞬間が私にとって理想的な瓶詰めのタイミング。それが生きたワインでありながら、長期保存にも耐えうる状態だと信じている。私は、ワインを”学びすぎない”ようにしています。 技術的・科学的になりすぎたくない。 ミネラル感、塩味、酸が果実を支える、それで十分。 何を飲んでいるか完全には分からない、その状態で体験することを楽しみたい」と語るのも感覚を大切にする彼女らしい言葉だ。

ロッソはメルロ主体にレフォスコをブレンドし、生産本数は約1,200本。100 %ホールバンチによるセミ・カルボニック・マセラシオンを採用し、「アルゼンチンで学んだシャクラのスタイルを、フリウリの品種で表現する」ことを目的としている。また2022年ヴィンテージでは、初めて知人から購入したオーガニック栽培のブドウを用いたリボッラ・ジャッラを2樽分のみリリースした。通常は重くなりがちな品種だが、よりフルーティーで軽快な表現を志向している。

DATA

造り手:マルタ・ヴェニカ

国/地域:イタリア/フリウリ

栽培面積:5 ha