Cisteller

システリエ

スペイン / ペネディス

籠職人から始まった家族の歴史 

システリエは、カタルーニャ州ペネデスのスビラッツに拠点を置く、セルジ・カナルス(Sergi Canals)とジェシカ・マディガン(Jessica Madigan)によるワイナリーである。2022年設立の新しいプロジェクトだが、その背景には100年以上にわたりペネデスのワイン産業と歩んできたカナルス家の歴史がある。ワイナリー名のCisteller(システリエ)は、カタルーニャ語で「籠職人」を意味し、曽祖父ジュゼップ・カナルスへの敬意を込めて名付けられた。20世紀初頭、彼はサン・サドゥルニ・ダノヤで収穫用の籠を作り、地域のワイン産業を支えた人物だった。その後、家族はブドウ畑を取得して栽培を始め、祖父ラモン、父ペレの代を経てワイン造りに携わるようになる。しかし、自らの畑の個性を表現する独自ブランドを立ち上げることはなかった。セルジは醸造学を学び、2015年にカリフォルニアのUCデービスでジェシカと出会う。二人はオーストラリア、ニュージーランド、ドイツ、リオハなど世界各地で収穫や醸造経験を積み、多様な産地の知見を吸収した。2019年にペネデスへ戻ると、家族の農園で小規模醸造を重ねながら区画ごとの個性を研究し、2022年にシステリエとして初ヴィンテージをリリース。2024年には高品質スパークリングワイン生産者団体Corpinnat(コルピナット)にも加盟した。システリエは、一人の籠職人から始まった家族の歴史と、世界各地で培った経験を融合させ、ペネデスという土地の個性を現代的な感性で表現することを目指すワイナリーである。

地中海と石灰岩が育むペネデスのテロワール

システリエが拠点を置くペネデスは、スペイン・カタルーニャ州を代表するワイン産地であり、多様な標高や地質、気候が織りなす複雑なテロワールを持つことで知られる。システリエの本拠地であるFinca el Sot(フィンカ・エル・ソット)は、ペネデス西部・スビラッツの山裾に位置し、約15 haの畑は20以上の小区画に分かれている。それぞれ標高や向き、土壌条件が異なるため、区画ごとに栽培・収穫・醸造を行い、その個性を最大限に引き出している。この土地を特徴づけるのは、地表近くまで広がる石灰岩質土壌である。薄い粘土質の表土の下にはチョークのような石灰岩が広がり、ブドウの根は深く張ることで乾燥した年でも安定した成熟を遂げる。一方で収量は5-6 t/ha程度と低く、その分、果実には高い凝縮感と伸びやかな酸、石灰岩由来の塩味が備わる。収穫時期も糖度だけではなく、pHや酸、果実の味わいまで確認しながら判断している。地中海から吹く風は畑を乾燥させ、有機栽培を支える重要な存在でもある。近年の猛暑には葉冠管理を細かく調整して対応し、畑の周囲に自生するフェンネルやローズマリー、タイムといった地中海性植物も、この土地ならではの香りを育んでいる。セルジは、ワインに現れる柑橘やハーブ、石灰、そして長く続く塩味は、醸造技術ではなく土地そのものの表現だと考えている。栽培の中心となるのは、チャレッロやマルヴァジア・デ・シッチェスなどペネデスの在来品種である。さらに瓶内二次製法によるスパークリングワインも手掛けるが、ジェシカは「私たちはペネデスでシャンパーニュの代替品を造りたいわけではない」と語る。他産地を模倣するのではなく、この土地だからこそ生まれる個性を表現すること。それがシステリエのワイン造りの原点となっている。

徹底した観察が導く、最小限の介入

システリエのワイン造りを支えているのは、「低介入」という言葉だけでは語れない、徹底した観察と管理に基づく哲学である。セルジは「必要な介入だけで済むように、できる限り多くの情報を集める」と語る。分析はワインをコントロールするためではなく、ブドウや畑を正しく理解し、その年に最適な判断を下すための手段なのである。その思想は、徹底した衛生管理にも表れている。健全な発酵環境を整えることで、亜硫酸などの添加物への依存を最小限に抑えることを目指している。収穫期には20以上の区画から数百点のサンプルを採取し、自社ラボで糖度やpH、酸などを分析するとともに、実際に果実を味わい、区画ごとに最適な収穫日を決定する。顕微鏡で自然酵母の状態まで確認し、自家製のピエ・ド・キューヴを用いるなど、細かな管理も欠かさない。畑では有機栽培と乾燥農法を基本とし、耐乾性に優れたチャレッロのクローンを選び、若木では収量より根の成長を優先するなど、数十年先を見据えた畑づくりを行っている。醸造では全房プレスを採用し、澱を活用しながら発酵を進め、ステンレス、コンクリート、古樽を区画ごとに使い分ける。樽も香りを付与するためではなく、穏やかな酸素供給によって質感を整えるための道具として用いている。システリエが最も重視するのは、スティルワイン、スパークリングワインを問わず、ベースワインの完成度である。十分なシュール・リー熟成を経て果実、酸、ミネラル、質感の調和を図り、土地の個性を瓶の中へ映し出す。その透明感と緊張感は、高度な技術そのものではなく、畑を深く理解し、必要な準備を積み重ねるという一貫した姿勢から生まれている。設立から間もないプロジェクトでありながら、システリエはすでに国際的な注目を集めている。

Wine Advocate誌では、記事の中で「one of the hottest, if not the hottest(現在のペネデスで最も注目される生産者の一つ、いや最も注目される存在)」と評され、彼らの取り組みが高く評価されている。

生産者ストーリー

私たちがシステリエを知ったきっかけは、Ex Occidenteを手掛けるベルナートからの紹介だった。彼は私たちに、「ペネデスで絶対に取り扱った方が良い生産者がいる。後悔はしないよ」と、強い言葉でシステリエを勧めてくれた。そこまで言うのであれば、ぜひ話を聞いてみたい。そう思い、まずはオンラインでミーティングを行うことになった。名前や拠点だけを聞いていた私たちは、昔からこの土地でワインを造り続けてきた、カタルーニャ人によるワイナリーを想像していた。しかし、画面越しに流暢なアメリカ英語で話し始めたのは、カタルーニャ出身のセルジ・カナルスだった。その意外さに、最初から少し驚かされたことを覚えている。後に知ることになるが、セルジはUC Davis(カリフォルニア大学デービス校)で醸造学を学び、世界各地で経験を積んだ後、故郷ペネデスへ戻ってきた醸造家だったのである。
システリエは、カタルーニャ州ペネデスのスビラッツに拠点を構える、セルジ・カナルスとジェシカ・マディガンによるワイナリーである。設立は2022年と新しいが、その背景には100年以上にわたりペネデスのワイン産業とともに歩んできたセルジの家族の歴史がある。ワイナリー名である「Cisteller(システリエ)」は、カタルーニャ語で「籠職人」を意味する言葉である。その名はセルジの曽祖父、Josep Canals(ジュゼップ・カナルス)への敬意を込めて名付けられた。20世紀初頭、13歳で故郷を離れたジュゼップは、現在のカバの中心地として知られるサン・サドゥルニ・ダノヤへ移り住み、籠職人として生計を立てた。当時、収穫したブドウを運ぶための籠はワイン造りに欠かせない道具であり、彼の仕事は地域のワイン産業を陰で支える存在だった。その後、家族は少しずつブドウ畑を取得し、籠作りからブドウ栽培へと歩みを進めていく。祖父ラモンの代にはブドウ栽培を本格化させ、父ペレの世代ではスパークリングワインの生産にも携わるようになった。こうしてカナルス家は、ペネデスのワイン文化とともに歴史を重ねてきたが、自らの畑の個性を前面に打ち出したワイナリーを立ち上げることはなかった。セルジはタラゴナのRovira i Virgili大学で醸造学を学び、さらなる経験を求めて2013年にアメリカへ渡る。そして2015年、同じくUC Davisで醸造学を学んでいたアメリカ出身のジェシカと出会った。卒業後、二人はオーストラリア、ニュージーランド、ドイツ、スペイン・リオハなど、北半球と南半球のさまざまなワイン産地で収穫や醸造を経験し、それぞれの土地で培われたワイン造りや栽培方法を学んだ。冷涼産地から温暖産地まで、多様な気候や品種に触れた経験は、後のシステリエのワイン造りに大きな影響を与えている。2019年、二人はセルジの家族が所有するフィンカ・エル・ソットへ戻り、自らのワイナリー設立に向けた準備を開始した。新しいワイナリーが完成するまでの間はガレージを改装し、小規模な醸造を行いながら区画ごとの個性や品種の特徴、醸造方法の違いを検証した。その試行錯誤を経て2022年にシステリエとして初めてのヴィンテージをリリースし、2024年には高品質スパークリングワインの生産者団体であるコルピナットへ正式に加入している。システリエは設立から日が浅いワイナリーでありながら、その歩みは一人の籠職人から始まり、四世代にわたって受け継がれてきた家族の歴史の延長線上にある。世界各地で得た経験と、ペネデスで育まれた伝統。その両方を融合させながら、この土地ならではのワインを追求することが、システリエというプロジェクトの出発点となっている。
システリエが拠点を置くペネデスは、スペイン・カタルーニャ州を代表するワイン産地であり、地中海沿岸から内陸の山岳地帯まで広がる、多様なテロワールを持つ地域である。一般的にはカバの産地として知られているが、その本質は標高や地質、気候の異なる数多くの小区画が織りなす、極めて複雑なワイン産地にある。システリエの本拠地となるフィンカ・エル・ソットは、ペネデス西部のスビラッツ、ムンタニェス・ドルダルの山裾に位置する。約20 haの敷地のうち、およそ10 haにブドウが植えられ、さらに周辺にも約5 haの畑を管理している。畑は20を超える小区画に分かれ、それぞれ標高、方角、土壌の厚さ、日照条件が異なるため、区画ごとに管理・収穫・醸造が行われている。畑を特徴づけるのは、地表近くまで露出した石灰岩質の母岩である。薄い粘土質の表土の下にはチョークを思わせる白い石灰岩が広がり、場所によっては数千万年前、この地が海だったことを示す牡蠣などの化石も見つかる。こうした石灰岩土壌は保水性と排水性のバランスに優れ、ブドウの根を地中深くまで導くことで、乾燥した年でも安定した成熟を支えている。一方で、この土地は決して収量の多い畑ではない。山間部では自然と樹勢が抑えられ、良年でも収量は5-6 t/ha程度に留まるという。谷間の肥沃な畑と比べると半分ほどの収量しか得られないが、その分、果実は高い凝縮感と豊かなエネルギーを備える。システリエが目指すワインにとって、この痩せた石灰岩土壌は欠かすことのできない要素となっている。彼らが畑で重視しているのは、糖度や収量だけではない。果汁のpHは自然と2.9-3.1程度まで低く保たれ、成熟した果実には石灰岩由来の塩味と伸びやかな酸が備わる。システリエでは収穫日を決める際にも、糖度だけでなく、リンゴ酸やpH、果皮や種子の成熟度、さらには実際に果実を口に含んだときの味わいを総合的に判断する。数値だけでは測ることのできない「土地の表情」を見極めることが、彼らにとって最も重要な仕事なのである。気候もまた、この土地の個性を形づくる重要な要素である。地中海から吹き込む風は夏の暑さを和らげるだけでなく、畑の湿度を下げ、有機栽培における病害のリスクを軽減してくれる。一方で近年は干ばつや猛暑も増えており、葉冠管理は区画ごとに細かく調整されている。東西方向の畝では風通しを優先し、南北方向では午後の強い日差しから果実を守るよう葉を残すなど、方角や日照条件に応じて管理方法を変えている。畑の周囲には、フェンネル、ローズマリー、タイムなど、地中海性の植物が自生している。セルジは、こうした植物が育つ環境そのものがペネデスらしさであり、その土地の香りがワインにも自然と映し出されると考えている。ワインから感じられる柑橘やハーブ、石灰、そして長く続く塩味は、醸造によって造り出されたものではなく、この土地が本来持つ個性の表れなのである。システリエでは、チャレッロをはじめ、マルヴァジア・デ・シッチェス、チャレッロ・ヴェルメル、マンゾーニ・ビアンコ、ガルナッチャ・ネグラ、スモルなど、多様な品種を栽培している。その中心となるのは、古くからペネデスに根付く在来品種であるチャレッロとマルヴァジア・デ・シッチェスであり、それぞれの品種が持つ個性を、区画ごとの違いとともに表現することを目指している。なお、システリエは伝統的製法によるスパークリングワインも手掛けているが、その考え方についてジェシカは印象的な言葉を残している。「私たちはペネデスでシャンパーニュの代替品を造りたいわけではない。」この言葉はスパークリングワインについて語られたものだが、その哲学はシステリエが造るすべてのワインに共通している。他産地のスタイルを再現するのではなく、ペネデスという土地だからこそ生まれる個性を素直に表現すること。それこそが、彼らのワイン造りの出発点となっている。
システリエのワイン造りを特徴づけるのは、「低介入」という言葉だけでは表現しきれない、徹底した観察と管理に裏付けられた醸造哲学である。セルジはワイン造りについて、「必要な介入だけで済むように、できる限り多くの情報を集める」と語る。この言葉は、システリエの栽培・醸造に対する考え方を最も端的に表している。彼らにとって分析とは、ワインをコントロールするためのものではない。ブドウや畑の状態を正しく理解し、その年、その区画にとって最適な判断を下すための手段である。その考え方は、ワイナリーに足を踏み入れた瞬間から感じることができる。醸造設備は非常に清潔に保たれ、衛生管理は日々のワイン造りの基本として徹底されている。セルジとジェシカは、健全な発酵環境を維持することが、亜硫酸などの添加物への過度な依存を避けるための前提条件であると考えている。ワインを守るために添加物を増やすのではなく、ワインが自然に健全な状態で醸造できる環境を整えること。その思想はワイナリー全体に一貫して貫かれている。収穫期には、20を超える区画から200-300点にも及ぶサンプルを採取し、自社ラボで分析を行う。測定するのは糖度だけではなく、pH、リンゴ酸、酒石酸、総酸、窒素など多岐にわたる。さらに実際に果実を口に含み、果皮や種子の成熟、味わい、塩味まで含めて総合的に判断し、それぞれの区画で最も適した収穫時期を決定している。自社ラボには顕微鏡も備えられ、自然酵母による発酵の状態まで自ら確認している。ピエ・ド・キューヴも自社で育成し、発酵の健全性を維持しながら、その年のブドウが持つ個性を最大限に引き出すことを目指している。こうした細やかな管理には、セルジとジェシカがUC Davisや世界各地のワイナリーで培った経験が色濃く反映されている。しかし、その目的は数値に従って画一的なワインを造ることではない。分析とは、より自然なワイン造りを実現するための土台なのである。畑では有機栽培を実践し、灌漑を行わない乾燥農法を基本としている。近年の干ばつを見据え、耐乾性に優れたチャレッロのクローンを採用するとともに、樹間を広く確保することで根を深く伸ばし、将来にわたって持続可能な畑づくりを進めている。若木では収量を求めず、果実を落として根の生育を優先させるなど、短期的な生産性よりも数十年先を見据えた栽培を行っている。醸造では、収穫したブドウを全房のまま空気圧式プレスでゆっくりと圧搾し、果実への負荷を最小限に抑えている。発酵では細かな澱を積極的に残し、ワインに質感や奥行きを与えるとともに、自然な発酵を支える栄養源として活用する。ステンレスタンク、コンクリートタンク、そして複数年使用したブルゴーニュ樽を区画や品種ごとに使い分けるが、樽は香りを与えるためではなく、穏やかな酸素供給によってワインの質感を整えるための道具として位置づけられている。システリエでは、スティルワイン、スパークリングワインを問わず、ベースワインそのものの完成度を何よりも重視している。ワインは瓶内熟成によって複雑さを得るものではなく、その前の段階でどれだけ土地の個性を表現できているかが重要だと考えているためである。そのため、タンクや樽で十分なシュール・リー熟成を行い、果実、酸、ミネラル、質感の調和を図ったうえで瓶詰めを行う。システリエのワイン造りは、醸造技術を競うものでも、自然に任せきるものでもない。畑を深く観察し、土地を理解し、必要な準備を積み重ねることで、ブドウが本来持つ個性をできる限り素直に表現することを目指している。その一貫した姿勢こそが、システリエのワインに透明感と緊張感、そして土地の個性を映し出す大きな理由となっている。
そんな彼らの生み出すワインはWine Advocate誌にて、「現在のペネデスで最も注目される生産者の一つ、いや最も注目される存在」と紹介され、スペインの次世代を担う生産者として高く評価されている。