Manfredi

マンフレディ

イタリア/シチリア

マルサラに吹く新たな風

シチリア島西部のマルサラと言えば、地域名を冠した酸化的な酒精強化ワインを思い浮かべる人が多い。マルサラワインは18世紀後半、イギリス人商人ジョン・ウッドハウスがこの地での生産と輸出を始めたことをきっかけに誕生。19世紀前半にはベンジャミン・イングラムやジョゼフ・ホイットカーといった商人の登場により、マルサラはイギリス市場向けの重要な輸出産地として急成長を遂げた。その後、イタリア人実業家ヴィンチェンツォ・フローリオの参入により、マルサラワインは産業化が進み、品質も向上。第二次世界大戦後には需要の減少という試練もあったが、1980年代からはマルコ・デ・バルトリが伝統的製法の復興に尽力し、クラシックスタイルの辛口マルサラの再評価を牽引してきた。2000年代前半には、デ・バルトリの哲学を受け継ぐニーノ・バラッコなどの造り手も登場。そうした流れの中で、現在のマルサラにおいて、伝統品種を用いた非酒精強化のスティルワインという新しい表現に挑戦しているのがフランコ・マンフレディである。世界中の最先端トレンドのワインが集うニューヨークにおいて、マンフレディのワインは、洗練された料理と優れたワインリストで知られ、ミシュランにも掲載されるファインダイニング”チャンバース”のセレクションにも加えられている。同店のワインリストを手掛けるのは、2023年のソムリエ世界大会で4位に入賞したマスター・ソムリエ、パスカリーヌ・ルペルティエ。彼女の厳選するワインのひとつとしてオンリストされたことで、マンフレディの名前は国際的な注目を集めている。 

周囲の反対を押し切った情熱、弁護士からワイン生産者へ 

マルサラで生まれ育ったマンフレディ。家族は副業としてブドウを栽培し、大手のワイン生産者へ販売していたが、当時の彼自身はワインに関心がなく、法律家を志して高校卒業後にローマの大学へ進学した。ローマでの生活の中で、彼は次第に食文化に興味を持つようになり、さまざまなレストランに通うようになる。同時にワインにも関心を抱き、シェフやソムリエとの交流を通じて知識や経験を深めていった。やがて彼はシチリアをはじめ、ラツィオ、ウンブリア、マルケ、カンパーニャなど各地の優れたワイン生産者を訪ね歩くようになる。ワイン造りに強く惹かれたマンフレディは、夏にマルサラへ帰省した際、地元のワイン生産者ヴィンチェンツォ・アンジレリと出会う。この出会いが、彼の将来を決定づける転機となった。それ以降、毎年ヴィンチェンツォの収穫に参加し、ブドウ栽培の経験を積んでいく。大学卒業後はミラノで弁護士としてキャリアをスタート。多忙な日々の中でも、食とワインへの関心は持ち続け、数多くのレストランに通い、休日にはピエモンテやフリウリなどの優れた生産者を訪問するようになった。偉大な造り手たちとの対話を通じて、ブドウ栽培や醸造に対する理解をさらに深めていったマンフレディの中に、次第にひとつの思いが芽生えていく――「自分でもワインを造ってみたい」。2019年の収穫時、彼はその思いをヴィンチェンツォに打ち明け、セラーの一部を借りる許可を得る。こうして、2020年に1 haの畑を購入し、ミラノとシチリアを行き来しながら、自らのワイン造りを始めた。初ヴィンテージはわずか1,000本。しかし、ワインを初めて造った喜びとさらなる学びへの渇望、そして2020年2月のミラノでのロックダウンの経験が、彼の心を突き動かす。「弁護士を辞めて、ワイン生産者として生きていくと伝えたとき、周囲には“正気か”と言われたよ。でも、自分の情熱を真剣に伝えると、応援してくれた。その気持ちに応えるためにも、しっかり取り組みたいと思った。」 

自然なアプローチ、クリーンでエネルギーをまっすぐ感じられる高品質なワインを 

マンフレディが目指すのは、マルサラの土地の個性を反映した高品質なワイン。マルサラは一般的に、豊富な日照と恒常的に吹く風により、病害のリスクが比較的低い地域として知られている。マンフレディもこの環境を活かし、オーガニック栽培を実践している。ただし、高品質なワインを造るためのブドウ栽培が必ずしも容易であるわけではない。強い日差しと温暖な気候はオーガニック栽培に有利ではあるが、一方でブドウの過熟や日焼け、酸の欠乏といった課題も伴う。大手生産者や輸出市場向けに安定した品質を目指す造り手の中には、補酸を行う者も少なくない。また、近年では生育期に集中豪雨が発生することもあり、畑の風通しを保ち、病害を防ぐためには適切な剪定が不可欠となる。「マルサラのブドウには、本来きれいな酸があり、塩味やミネラルを感じられる。僕はそれをワインに映し出すことを目指している。酸を保ちつつしっかりと熟度のあるブドウを収穫するためには、畑での作業こそが最も重要だ」とマンフレディは語る。

セラーでは、ブドウのポテンシャルを最大限に引き出すため、可能な限り低介入の醸造を行う。発酵は白ワインでは栗の木製の樽、赤ワインではプラスチック製容器を用い、すべてのワインをステンレスタンクで熟成させている。「フレッシュなアロマを保つために、発酵や熟成段階で温度管理をする生産者もいるけれど、僕はあえてしない。マルサラの強い日差しのもとで育ったブドウは、酸化に対して自然な耐性があるから。そして、ヴィンツェンツォのセラーにはそんなに電源もないからね」と笑う。発酵には野生酵母を用い、SO2は瓶詰時にごく少量のみ添加。それ以外の添加物は一切使用しない。「僕はこの土地を反映したブドウから、自然なワインを造りたいと考えている。でもそれは、揮発酸が味わいを覆い隠すような“ファンキーなナチュラルワイン”ではなく、これまで出会ってきた偉大な生産者たちのように、クリーンでブドウのエネルギーをまっすぐ感じられる高品質なワインなんだ。」

生産者ストーリー 

【マルサラから世界へ、弁護士のキャリアを捨てて挑むワイン造り】 

さまざまなワイン生産者を訪問している中で、「高品質なワインを造っている新しい生産者を知らないか」と尋ねたところ、複数の生産者から名前が挙がったのがマンフレディだった。ある造り手はこう言った――「シチリアのマルサラで面白いワインを造っている男がいる。マルサラと聞くと酒精強化ワインや、マルコ・デ・バルトリ、ニーノ・バラッコといった一部の高品質なスティルワインのイメージが強いけれど、彼のワインにはマルサラ、いやシチリアの新時代を感じるよ」。その言葉に惹かれてワインショップで購入し、グラスに注ぎ一口飲んだ瞬間、私は彼にメッセージを送っていた。 

シチリア島西部のマルサラで生まれ育ったマンフレディ。家族はブドウ畑を所有し、他の生産者にブドウを販売していたが、当の本人はワインに関心がなく、法律家を目指していた。大学進学とともにローマへ移り、法律を学ぶ日々が始まる。多様な食文化が混ざり合うローマでの生活の中で、彼は次第に食に興味を持ち始め、さまざまなレストランに通うようになる。そして自然とワインにも惹かれるようになった。一度興味を持つと、とことん突き詰める性格のマンフレディ。ワインに対する探究心も例外ではなく、シェフやソムリエとの対話を通じて知識と経験を深めていく。その頃、帰省したマルサラで出会ったのが、地元の生産者ヴィテアドヴェストのヴィンチェンツォ・アンジレリ。この出会いが、彼の人生を大きく変えるきっかけとなった 

それ以来、毎年夏にはマルサラに戻り、ヴィンチェンツォの収穫を手伝う。ワインフェアへの参加や、生産者との交流を通じて、醸造に対する理解も深めていった。大学卒業後はミラノで弁護士として働きながらも、週末にはピエモンテやフリウリなどのワイン産地を訪ねるなど、ワインへの情熱を絶やすことはなかった。順調なキャリアを築きつつあったマンフレディだが、2019年にヴィンチェンツォへ「自分のワインを造ってみたい」と相談する。そして翌2020年、世界がコロナ禍に突入し、ミラノの街がロックダウンされたことで、彼は自身の内なる声と真正面から向き合うことになる―「本当にやりたいのはワイン造りだ」と。 

ノチェーラ、ネレッロ・マスカレーゼ、ネロ・ダーヴォラ、ジビッボ、グリッロ、カタラットといった地元の伝統品種を中心に、計1haの畑を取得。ヴィンチェンツォの協力を得て、同年に初ヴィンテージとなる1,000本のワインを仕込んだ。喜びと同時に、「自分は学校で栽培や醸造を学んだわけではない。やるからには徹底的に取り組まなければ」と痛感。2021年、ついに弁護士を辞め、マルサラに戻る決断を下す。「家族や友人からは何度も“正気なのか”と言われたよ。弁護士としてのキャリアは順調だったし、ワイン生産者の法務を担当した経験もあって、業界とのつながりもあった。でも、自分の情熱は完全にワインに向いていた。一度ワインを造ってみて、これを一生かけて突き詰めたいと感じたんだ」と当時を振り返る。マルサラに戻ったマンフレディは、ヴィンチェンツォのワイナリーで働きながら、自身のプロジェクトを本格的にスタート。現在は2.95 haの畑を所有している。ブドウのほとんどは伝統的なアルベレッロ仕立てで、一部グイヨ仕立てもあり、すべての作業は手作業で行っている。

 マルサラは、生育期の平均降水量が100-150 mmと少なく、風が常に吹いているため、カビや病害虫のリスクが比較的低い。シチリア全体ではオーガニック栽培の割合が世界一の38%*を誇り、マンフレディもその実践者のひとりだ。とはいえ、オーガニック栽培で高品質なブドウを育てるのが簡単なわけではない。近年は集中豪雨による病害のリスクも高まっており、特に2023年は5-6月に病害の圧力が強まり、シチリア全体で前年比34.48%、過去13年で見ると約40%の収穫減となった。「オーガニックに取り組むのはもちろんだけど、シチリアの強い日差しからブドウを守る必要もあるし、逆に葉が多すぎると風通しが悪くなって病害のリスクが高まる。そのバランスが一番大事なんだ」と語る。「生育期はほとんど畑にいる。良いワインを造るには、良いブドウが不可欠。畑での作業こそがすべてだと思っている。弁護士時代とは別の忙しさがあるけれど、家族やヴィンチェンツォのように支えてくれる人たちがいて、本当に充実しているよ。あのときの決断に、まったく後悔はない」と笑う。

“マルサラ=酒精強化”という世間のイメージを覆すことは容易ではない。しかし、マルコ・デ・バルトリやニーノ・バラッコといった先人たちは、マルサラという土地からも高品質なスティルワインが生まれることを証明してきた。生産量はまだ少ないが、マンフレディはそうした造り手たちと肩を並べつつある。セラーは今もヴィンチェンツォの施設を借りている。「彼のおかげでワイン造りができている。本当に感謝してる。でも、プレスのタイミングがかぶると、やっぱり彼のワインが優先になっちゃうんだよね」と冗談めかしつつ、ヴィンチェンツォへの敬意を照れくさそうに語る。

「この土地、この地域、このブドウを映し出すようなワインを造りたい。マルサラは太陽をたっぷり浴びて、ブドウは濃く熟す。でも、同時に高い酸と美しい塩味を持つ。それを活かすには、できるだけ低介入な醸造が必要なんだ。」発酵には野生酵母を使い、発酵中・熟成中ともに温度管理は一切行わない。南イタリアでは補酸を行う造り手も多いが、マンフレディはブドウそのものの味わいを尊重し、ボトリング時に少量のSO₂を加えるだけで、他の添加物は一切使用しない。「ファンキーなナチュラルワインを造りたいんじゃない。僕が目指すのは、土地とブドウの個性を自然に、そしてクリーンに映し出すワインなんだ。偉大な造り手たちがそうしてきたように。」

「日本に初めて入港した2023年ヴィンテージは、彼にとって4回目のリリースとなる。「まだ生産量は少ないけれど、少しずつワインの造り方や、自分が目指すアプローチの方向性が見えてきた。そしてこれまでリリースしてきたワインの中で最も満足がいっているヴィンテージだ」と語る。シチリアから吹く新たな風を体験していただきたい。

*参照「2024年のSicilia en Primeur(シチリア・アン・プリムール)」で発表されたSIAS、ISAC、ISPRAの気候分析および、Uva Sapiensの醸造家マッティア・フィリッピ氏による講演

DATA

造り手:フランコ・マンフレディ

国/地域:イタリア/シチリア

栽培面積:2.95 ha