
ラブセッラ
オーストリア/シュタイヤーマルク

静かに受け継がれるワイン生産者の血脈
ルーカス・ツェッペ(Lukas Tscheppe)は、オーストリア南部シュタイヤーマルク州フォシュタッハ村にてワイン造りを実践する若手醸造家である。彼は、Andreas Tscheppe、Maria Muster(Sepp Musterの妻)、そしてWerlitsch(エーヴァルト・ツェッペ)といったオーストリアにおける自然派ワイン界の先駆者たちを叔父・叔母に持ち、従兄弟のElias Musterとともに、自然との共生を重んじる家系の中で育った。そのような環境にありながらも、ルーカスは当初からワイン造りを志していたわけではなかった。青年期には将来の目標を見出せず、両親のすすめで地元のワイン学校に進学するも、卒業後は醸造の道に進まず、大工として職を得ていた。しかし、日常的に接する家族や親族のワイン造りへの真摯な姿勢に改めて向き合うことで、自然と自身もその世界に魅了されていく。特にWerlitschのエーヴァルトからは多くの影響を受けており、ルーカスにとって彼は実践的な助言をくれるだけでなく、精神的な支えでもある。名門の血筋と、そこに流れる哲学の中で育まれた価値観が、現在のルーカスのワイン造りの原点となっている。現在ルーカスが拠点とするRabusellaは、1999年に彼の両親が取得した農園である。当地では家名とは別に農家に固有の名称を付ける慣習があり、Rabusellaもその一つだが、その語源は不明であり、専門家による調査でもルーツは明らかになっていない。この農地では取得当初から一度も除草剤や殺虫剤が使用されておらず、持続可能な農業の理念が家族によって一貫して守られてきた。2019年、ついにルーカスは自身の名義で初めてワインを醸造する。小さなバリック樽でわずか数百本からのスタートだったが、そこには家族の伝統と自身の哲学を融合させた明確なビジョンが込められていた。こうして誕生したRabusellaワインは、名門一族の一員としてのプレッシャーを超え、ルーカス自身の個性と静かな情熱を映し出す存在として注目を集めはじめている。

自然のエネルギーと複雑な土壌を最大化する徹底的な手仕事
ルーカスが所有する畑は、フォシュタッハ村とその周辺の丘陵地に広がる約3 haの南向き斜面に位置し、標高300-400 mの冷涼な気候条件に恵まれている。シュタイヤーマルク州特有の起伏ある地形と、砂質・粘土質・礫質が混在する多層的な土壌構成が、区画ごとの多様性と奥行きのある果実を育む背景となっている。現在栽培されている品種はヴァイスブルグンダー(ピノ・ブラン)とソーヴィニヨン・ブランの2種に限定され、いずれも1999年前後に植樹された樹齢25年程度のブドウが主体である。すべての畑では「一本仕立て(single-wire training)」という高仕立て方式が用いられており、この手法は日照の確保と風通しの向上によって病害を抑え、同時に酸の保持にも貢献している。農薬や除草剤は一切使用されておらず、畑は自然草生を基本とした管理が行われている。作業はルーカスとその母親の二人による完全手作業で進められ、剪定から収穫に至るまで、畑の隅々にまで目が行き届いた栽培が徹底されている。機械作業に頼らないことで、より細やかな判断と感覚が求められ、それがそのままワインの精緻なスタイルにも反映されている。ソーヴィニヨン・ブランには2つの異なる区画があり、それぞれ独自のキュヴェとして仕込まれている。オレンジラベルのGreteは、祖母が管理していたアイヒベルクの砂質土壌の区画から。日照が豊富で温暖な気候により果実はよりふくよかに育ち、1-2週間ほど早い収穫が行われる。もう一方の黄色ラベルRabusellaは、フォシュタッハの粘土・礫質土壌の畑で、より構造的でシャープな印象の果実が育つ。ヴァイスブルグンダーは、家の目の前に広がる1 haの区画から収穫される。この畑は最も日常的に観察されている象徴的な場所であり、ルーカスの醸造哲学が最も色濃く表れるキュヴェとなっている。

ブドウと土地のピュアな表現
ルーカスの醸造スタイルは、人的介入を極限まで排し、ブドウと土地が持つ本質的な表現力を引き出すことに重きを置いている。すべてのワインは野生酵母によって自然発酵され、温度管理は一切行われない。使用される容器は全て古樽(バリックまたは大樽)で、新樽の影響を排除することで、果実や土地由来の要素がワインの中核となるよう配慮されている。除梗はキュヴェにより異なるが、基本的には全房または一部全房での仕込みが採用されており、発酵中のスキンコンタクトもスタイルに応じて変化する。ヴァイスブルグンダーとソーヴィニヨン・ブランGreteは一晩のマセラシオン、ソーヴィニヨン・ブランRabusellaは2週間と、それぞれの畑や品種の個性を引き出す設計がなされている。熟成は澱と共に1-2年間、古樽で静かに行われ、その後さらに瓶内での熟成を経て出荷される。2022年までは1年樽熟成+1年瓶熟成が基本だったが、2023年からは樽熟成を2年に延ばし、瓶熟成を半年とする新たなプロトコルに移行。これは酸化耐性を高め、熟成のポテンシャルをより引き出すための試みである。瓶詰め前にはごく少量のSO2(10-15 mg/L)が添加されるのみで、清澄や濾過も行われない。これにより、ワインはそのままの姿で瓶詰めされ、ブドウと土地の個性がピュアに反映される。ルーカスのワインスタイルは、派手さや技巧的な味わいではなく、繊細な酸、緻密なテクスチャー、内向的で思慮深い印象が特徴である。2021年はストラクチャーがあり、熟成向きの硬質なスタイル。すべてのワインはキュヴェごとに600-1,000本と極めて少量で、丁寧に管理された畑と醸造の積み重ねがその味わいに反映されている。ルーカスの哲学は「人が支配するのではなく、自然に寄り添いながら本質を表現すること」。その静かな信念は、グラスの中で確かに語りかけてくる。


生産者ストーリー
【ワイン名家の哲学とともに、土地と語り合う次世代の醸造家】
あるシャンパーニュの生産者を訪問した際、オーストリアのインポーターと一緒になった。訪問の最後に、生産者含めみんなでそれぞれ持ち寄ったワインをテイスティングした。そのタイミングで、一人が何かを思い出したように車に戻り、1本のワインを持ってきた。「このワインはみんなでブラインドで飲んでほしい」そう言って、彼はワインを抜栓した。透明感がありながら奥行きもあり、澄んだ酸がワイン全体を支えるその味わいに、テーブルを囲んでいた全員が思わず唸った。彼は満足そうにワインを包んでいた布を外し、静かに語った。「僕の友人で新しくワイン造りを始めた人なんだ。ルーカス・ツェッペと言って、アンドレアス・ツェッペやマリア・ウント・ゼップ・ムスターのマリア、ヴェルリッチのエヴァートの甥っ子なんだよ。とても気に入ってくれてよかった。有名なワイン生産者の家系出身であるという先入観を持たずに飲んでほしかったんだ。」この一言とそのワインの印象が強く残り、数か月後、私は実際にその「ルーカス・ツェッペ」を訪ねてシュタイヤーマルクに向かった。

ルーカス・ツェッペは、オーストリア南部・シュタイヤーマルク州フォシュタッハ村にて、自然派ワイン造りを実践する若手醸造家である。彼の家系はこの地域における自然派ワインの草分け的存在であり、母親の兄妹には、Andreas Tscheppe、Maria Muster(Sepp Musterの妻)、そしてWerlitsch(エーヴァルト・ツェッペ)という名だたる生産者が並ぶ。従兄弟にはElias Musterもおり、親族全体が自然農法と低介入のワイン造りに強い美学を持つ、オーストリア、世界を代表する生粋のナチュラルワイン一家に育った。ルーカスの家族が現在の農園を取得したのは1999年。通称 “Rabusella” と呼ばれるこの土地は、地域の伝統に則り、家名とは別に農家名を冠しているが、名称の語源は不明で、専門家が調査してもいまだ由来は解明されていない。畑では取得以来一度も除草剤や殺虫剤は使われておらず、自然との共生を軸に据えた農業が行われてきた。長年、収穫されたブドウは他のワイン生産者に販売されていたが、2019年、ルーカスが自らの名義で醸造を開始する。とはいえ、ルーカス自身が幼少期からワイン造りに強い関心を持っていたわけではない。進路に迷っていた若き日、両親の勧めで地元のワイン学校に進学するが、卒業後は大工として働き始める。しかし、家族や叔父叔母たちの造るワインに改めて触れる中で、自らの血に流れるものへの気づきが芽生え、自然とワイン造りへと導かれていった。特にWerlitschのエーヴァルトとは非常に親密な関係で、実践的な助言や哲学の面でも多くの影響を受けている。一方、Andreas TscheppeやSepp Musterは厳格なスタンスを持ち、ルーカスはほどよい距離感を保ちつつ、それぞれから異なる学びを得てきたという。

現在ルーカスは、フォシュタッハ村およびその周辺におよそ3haの畑を所有しており、栽培しているのはヴァイスブルグンダー(ピノ・ブラン)とソーヴィニヨン・ブランの2品種のみである。標高300-400 mの南向き斜面、粘土質・砂質・礫質が混在する土壌、そして伝統的な一本仕立て(single-wire training)による高仕立てのブドウ栽培。すべての畑で無農薬、無除草剤による管理が徹底されており、草生栽培を基本とした丁寧な畑仕事は、ルーカスと母親の二人の手により一貫して行われている。各区画には個別のキャラクターが与えられており、ソーヴィニヨン・ブランは2種類のキュヴェに分けて仕込まれている。オレンジラベルのGreteは、祖母が管理していたアイヒベルクの砂質土壌の畑から。温暖な気候と日照により1-2週間早く収穫され、マセラシオンは一晩。ふくよかでアロマティックな味わいに仕上がる。一方、黄色ラベルのRabusellaは自宅を取り囲む畑。粘土・礫質土壌由来で、2週間のマセラシオンを施している。だがその印象は重たくなく、むしろ透明感と構造のバランスに長けている。ヴァイスブルグンダー(緑ラベル)は、家の目の前に広がる1 haの畑から生まれる。こちらもマセラシオンは一晩と短めで、繊細な酸と柔らかな果実味が共存する、品種と土地の純粋性を体現するキュヴェである。醸造においても、人的介入を極限まで排したアプローチが採られている。すべて野生酵母による自然発酵、温度管理なし、全量古樽使用。除梗は部分的に行われるが、基本的には果皮と種とともにじっくり時間をかけて発酵が進められる。澱とともに長期間熟成され、SO2は瓶詰め前に10-15 mg/Lのみ、無清澄・無濾過でボトリングされる。2022年ヴィンテージまでは1年間の樽熟成+1年間の瓶熟成が標準だったが、2023年以降は2年間の樽熟成+半年の瓶熟成へと移行した。ルーカスは「より長く樽に滞在することで、酸化に強く、より安定した熟成を迎えられる」と考えている。スタイルとしては、全体的に穏やかで誠実。押し出しの強いスタイルではなく、繊細なテクスチャー、瑞々しさ、しなやかな酸、そして土壌のニュアンスが丁寧に表現されたワインが中心である。2021年は力強く、熟成向きの年とされており、開栓直後はやや硬さがあるが、時間とともに大きく開く。2022年は果実味が前面に出た、親しみやすいスタイル。ヴァイスブルグンダー600本、各ソーヴィニヨン・ブラン1,000本前後と生産量は限られている。まだ駆け出しとはいえ、その完成度の高さと一貫した美意識には、既に多くの注目が集まりつつある。ラベルのデザインは素朴で、Greteのオレンジラベルを初めて見た時の驚きと味わいの記憶は、今でも忘れられない。土地と家族の歴史、周囲の巨匠たちとの距離感、そして自らの信念。それらすべてを静かに内包しながら、Rabusellaのワインは今日も静かに語りかけてくる。


DATA
造り手:ルーカス・ツェッペ
国/地域:オーストリア/シュタイヤーマルク
栽培面積:3 ha
