Ziereisen 

ツィアアイゼン

ドイツ/バーデン

一代でドイツ・バーデンを代表する生産者に

ツィアアイゼンが位置するのはドイツ最南端のワイン産地バーデンの中でも最も南の小さなエフリンゲン・キエヒェン村。周囲には絶壁の石灰岩の石切り場が広がっている。ツィアアイゼンの畑の多くはエフリンゲンのエールベルクにある。南向きの斜面で標高は約500m。日中は陽当りがよく温かいが、夜にはシュヴァルツヴァルト(黒い森)からの冷たい風が吹き気温を下げる。そのためブドウは酸を保ったままゆっくりと成熟する。この地はバーデンでも唯一のブルゴーニュと同じジュラ紀の石灰質土壌であり、さらに年間降水量、年間平均気温もブルゴーニュと同程度。そのため古くからシュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)が栽培されてきた。当主のハンスペーターもブルゴーニュワインを好み、自らのワイン造りの参考にしている。しかし、「ブルゴーニュワインは好きだがそのスタイルを目指しているわけではない。この土地だからできるブドウ、それを表現するワイン。私は私のスタイルを追い求めたい。」と語る。 

ドイツで広まるLandweinという流れ 

産地を聞いて味わいをある程度イメージできるのは産地≒スタイルのルールがある程度確立されてきたらであろう。しかしその一方で、イタリア・キャンティクラシコのジョヴァンナ・モルガンティ、フランス・北ローヌのドメーヌ・グラムノンなど高品質を目指すゆえ、低いカテゴリーでワインをリリースする生産者がいる。ドイツも例外ではない。現在ドイツではバーデンを中心にフランスではヴァン・ド・ペイに相当するLandwein(ラントヴァイン)を付ける生産者が増えている。そしてその流れの大きなきっかけはツィアアイゼンだろう。ツィアアイゼンは野生酵母のみでワインを造る。しかし2004年、そんなワインに対して「品質は問題ないが典型的なバーデンのワインとして認められない」と審査委員会から伝えられた。自然発酵の風味があるもの、ろ過をせず酵母の濁りがあるものなどは典型的でないとして検査で弾かれてしまう。そのためツィアアイゼンでは2006年からはドイツワインの中では低い格付けのラントヴァインとしてリリースしている。「畑では健全で素晴らしいブドウが収穫できるよう手を尽くす。そして私たちはブドウの個性を活かすため例外なく野生酵母を使用し、セラーではほとんど手を加えない。ブドウを表現するんだ。それが私たちのスタイルで、私たちはそれを追及する。審査委員会の求める画一的なワインは造りたくない。」 その考えは他の生産者にも大きな影響を及ぼし、積極的にラントヴァインを名乗る生産者が増えている。ツィアアイゼンの主導でヴァーゼンハウスやフォルグリムラーなどラントヴァインを名乗る生産者に呼びかけ、その品質の高さを見せるべく”Landweinmarkt” を主催しており、大きな潮流となっている。 

グートエーデルの可能性  

「グートエーデル」という名前に馴染みがなくても「シャスラ」と聞けばピンとくる人は多いかもしれない。スイスで多く栽培されているこの品種はドイツでは「グートエーデル」という名で呼ばれる。とは言ってもドイツでの栽培エリアはバーデン地方の最南部に集中している。すっきりした軽快なワインが造られることが多いブドウであるが、ツィアアイゼンのワインを飲むとそのイメージがひっくり返る。深遠でボリューム感がありながらも、火打石や塩味を想起させるミネラル感が中盤から後半に溢れ出てくるスタイルは「シャスラ」からは想像できない。高い酸に支えられ、長期の熟成ポテンシャルが感じられる。しばしばワイン評価誌ではコート・ド・ボーヌの偉大なワインと比較され、ミネラルの表現がコシュ・デュリ的と評される。 

生産者ストーリー

【人を惹きつける夫婦とワインと】

「正直あのワインにはたまげたな。今回飲んだ中で一番だったかもしれない。」あるブースから立ち去る人たちから興奮に満ちた会話が聞こえる。しかも同様の会話が一組ではなく何組からも。  

ドイツ・デュッセルドルフで開かれる世界最大のワイン見本市プロヴァイン。世界各地から約7,000の生産者が集まり、ビジネス商談の場として世界中のワインインポーター、メディア、評論家などが訪れる。生産者は各々ブースを出展しているが、その規模やレイアウトは生産者毎に大きく異なり、そのまま会社規模や展開ビジネスを予測できる。スーツに身を包んだ大手の著名生産者のブースには多くの人が集まり、我こそはと試飲や商談の機会を狙っている。3日間開催されるプロヴァインの初日、偶然通りかかった小さなブースの前に人が行列をなしているのが見えた。どんな有名生産者なのだろうと思い、多くの後頭部の隙間から目を凝らした。「Ziereisen」生産者のブースにはそう書かれており、黒いTシャツを着た一組のカップルが笑顔でワインを提供していた。多くの人が集まり忙しいのは当然だが二人はその状況を活き活きと楽しんでいた。温かい空気にさらに人が集まってくる。ブースを後にした人々の興奮で熱を帯びた声が私の耳に届く。私自身ドイツで生活をしていることもありツィアアイゼンの名前とその高い評判はよく耳にしていた。試してみたい。しかしあまりの人の多さに圧倒され、また人が減ったタイミングで来ようと思い一旦ブースを後にした。  

結局、2日目3日目になっても人の列が消えることはなかった。むしろプロヴァイン期間中に試飲した人たちの評判が評判を呼び、時間が経つにつれ人だかりは膨らんでいく一方だった。しかし、最後の最後で機会は訪れた。「そこの君、ちょっとこっちに来て」。振り返るとツィアアイゼンの女性がブースの内側に来るよう手を振っていた。「何日間もうちのブースを見に来てくれてたよね。認識はしてたんだけどね。ずっと混みあっててごめんね。良かったらうちのワイン試していかない?」忙しかった3日間の最終日になっても、彼女の笑顔は活き活きとしており、またその口調から自らのワインに対する自信が感じられた。  

ツィアアイゼンのワインの感動に興奮が冷めやらない帰り道、もらった名刺にメールを送った。しばらくして返事が来た。「ようやくアスパラガスのシーズンが終わったよ。良かったらワイナリーに遊びに来て」  

当主のハンスペーターはブルゴーニュワインを好み自らのワイン造りの参考にしている。しかし、「目指すワインはブルゴーニュではない。この土地だからできるブドウ、それを表現するワイン。私は自分のスタイルを追い求めたい。」ワイナリーに所狭しと並べられた空き瓶を見るとその意味が理解できる。ブルゴーニュのトップドメーヌのほか、ボルドー、ジュラ、ドイツの他産地など。とにかく多くのワインを経験し反芻しながら自らのワイン造りに還元している。経歴的にハンスペーターはいわゆる王道のワインメーカーではない。ワイン造りを学校で学んだことも、有名なワイナリーで修業をしたこともない。もともと農園を営む家系で、アスパラガス(現在でも絶品と大人気)やジャガイモ、ビーツ、ブドウなどを売っていた。ここで初めて受け取ったメールの意味が理解できた。自家消費用にわずかながらワインも造っていた。ハンスペーターは家業とは離れ家具職人として働いていたが、気が付けば情熱の矛先はワインに向いており、ついには1991年にワイナリーを設立した。数えきれないほどのワインを飲みながら、時に他の生産者を訪問し意見を求め、自らのスタイルを探求し試行錯誤を重ねた。当初は生産本数も少なく近所の人々ですぐに売り切れた。徐々に生産量は増えたが、その評判が広まる速度には間に合わなかった。 

ハンスペーターとエーデルトラウト夫妻を見ていると「職人気質」という言葉が「気難しい」という意味を包含することに疑問を感じる。彼らはとにかく明るく、人を惹きつける。私がワイナリーを訪問している間にも何人もの近所の人が顔を出し、彼らの作る野菜やワインを買っていった。電話も鳴りなまない。またフランス、スイスとの国境に近いため近所の住人だけでなく国外からも多くの人がツィアアイゼンのワインを買いに訪れる。「今回は彼の赤ワインを買いに来たんだ。いつもすぐに売り切れちゃうからね。本当にラッキーだったよ。」スイス方言のドイツ語は聞き取りに苦労したが、彼の喜びは十二分に伝わってきた。  

この地域には15世紀から行われている” Stubete” というイベントがある。ワインメーカーが友人や近所の人々を招いてみんなでワインを飲みながら語り合うというものだ。私も招待してもらったので喜んで参加した。他にもインポーターやソムリエ、評論家などワインを生業とする人が集まるものと予想していたが、集まっていたのはほとんど近所の住人で古くからの友人だった。バックヴィンテージのワイン15本。1本ずつハンスペーターがみんなに注ぎ、議論をしながら飲む。ワインが繋げる(もしかしたらアスパラガスも)友人関係を実感した。  

DATA

造り手:ハンスペーター、エーデルトラウト

国/地域:ドイツ/バーデ

栽培面積:21 ha